- この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO -

公式サイト(ではないんですが、凄いので……w)

 【この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO】は、1996年にPC-98版、1997年にセガサターン版、2000年に他のゲームとパックになったWindows版が発売された、マルチシナリオの超大作アドベンチャーゲームです。業界内では著名なゲーム作家である菅野ひろゆき氏の代表作です。
 僕がプレイする機会を得たのはブームが過ぎてからかなり後で、既に化石となってからでしたが、時代を超えた名作というのはこういうゲームの事を言うんだなと思いました。

 物語は、異端の歴史学者、有馬広大が事故で行方不明になって1ヵ月後、「死体が見付からない=死亡」と断定されたところから始まります。有馬広大の息子で高校生の主人公、たくやは早くに実母を亡くしており、広大もいなくなった現在は義母の亜由美という眼鏡美人と一緒に暮らしていました。
 ある日の夜、たくや宛てに一つの郵送物が送られてきました。その中には親父からの手紙と、謎の装置〔リフレクター・デバイス〕が同封されていました。親父の手紙によると、これを使用すれば異なる並列世界へと移転できるとかなんとか書いてありました。意味を理解しかねる主人公。さらに、このリフレクターに八つの宝玉がはまっていることを確認し次第、夜10時に地元にある三角山まで来いと書かれていました。しかし、リフレクターには二つしか宝玉がはまってません(゜Д゜)。どういうことだよと疑問に思いつつ、親父は生きていると確信した主人公は三角山を訪れます。
 三角山を訪れ異変を察知した主人公は、倒れ込んだ金髪の少女を発見しました。しかしその少女は主人公に対して安堵の表情を見せた直後に死んで消えていなくなってしまいますっ。
 さっぱり状況が飲み込めない主人公の前に、今度は親父の親友であり通っている高校の学長、龍造寺と亜由美が現れ、龍造寺は主人公に銃を突きつけながら、持っているリフレクターを渡せと迫ってきます。その時、巨大な地震に見舞われ、主人公は気を失い、気付くと誰もいなくなっていました。
 またまた現状を把握しかねる主人公はあちこちを回ります。そして、自分が自分のいた世界ではなく、並列世界に飛ばされたことを理解します。

 親父は何処に行ったのか、亜由美の勤める会社は何をしようとしているのか、龍造寺は何者なのか、三角山とは、リフレクターとは、そしてあの少女は何者だったのか…… その他諸々の多くの謎が絡み合い、物語を形成しています。主人公はそれらを解き明かし、宝玉を集め、あの少女を助けるため、時空の旅に出ます。

 え〜、このゲーム、シナリオがとてつもない完成度というか、ただただ感嘆するしかないです(;@Д@)。感動して泣くようなシーンはありませんでしたが、終始圧倒され鳥肌が立ちっぱなしでした。しかもシナリオとゲームシステムが密接に関係しているのです。
 このゲームは、基本的に、リフレクターというアイテムを使って並列世界を移動しつつ進めていくマルチシナリオのアドベンチャーゲームです。
 リフレクターとは、例えばですよ、昨日の夜、貴方がリフレクターの宝玉に触れたとします。すると、宝玉は時間の流れや座標の流れに取り残され、その場に留まります。つまり僕達の目の前からは消えてなくなるわけですね。さて、今日、貴方は嫌なことはありましたか?ありましたね、できれば昨日に戻りたいと思うですよね?思いますね。そこでリフレクターの登場ですよ。リフレクターを作動させると素子が放射され、あの停止した宝玉と反応して、なんと貴方は昨日の夜に戻れるのです(`w´)。
 が、戻ったといっても、そこはもはや今まで貴方が暮らしていた世界ではありません。残念ながら、翌日の記憶を持ち、僅かに異なった分子構造を持つ貴方が来たことで、新しい世界ができてしまったのです。時間を戻ることはできても、一度作られた世界の歴史は変えることができないのです。

 厳密には上記の説明とはちょと違うですが、大凡こんな感じです。違う行動を取ることで、まるで木の枝のように物語が分岐していきます。基本的に、リフレクターは分岐直前に使うことが多いです。
 リフレクターを使いながら、この木を移動し、時空を超えて数々の謎を解いていくストーリー展開は鳥肌物です。ここまで革命的なゲームシステムとストーリーを結びつけたアドベンチャーゲームがかつて存在しただろうか? いや、ない。たぶん。すみませんアドベンチャーゲームほとんど知らないwwwwwww

 このゲームは全体を通して非常に悲しい展開となります。主人公が愛する人々は多くが死を迎えます。彼女らは物語中の存在ですが、プレイヤーが「彼女たちが幸せであって欲しい」と思ってしまうほど魅力的です。主人公がリフレクターを使い、愛する人を救ったとしても、愛する人を救えた世界が誕生するだけであり、愛する人を救えなかった世界は確かに存在してしまうのです。切ないです。
 が、主人公は複数の世界で様々な出来事を経験する内、一つの終結へと導かれます。数々の謎を解き、全ての宝玉を集めた時、主人公はデラ=グラントと呼ばれる異世界へと足を踏み入れます。デラ=グラントで全ての決着が付いた時。主人公は自分がいるべき世界…… そう、あの少女が死んでしまう直前の世界へと帰ってきます。
 そうです。複数の世界を渡り歩いたといっても、主人公がいるべき世界というのは、そこでしかなかったのです。エンディングでは、ゲームのタイトルの意味も解り、今までのストーリーを振り返りつつ、もう、「うぁ〜……」と驚嘆しました。

 このゲームのストーリーは複数のテーマが含まれていますが、それらを途中で放棄せずしっかりとまとめた所も素晴らしいです。複数のテーマをここまでまとめられたのは、複数の並列世界を渡り歩けたおかげとも言えます。そういった面でも、このゲームのシステムとストーリーが極限まで昇華されたものであることが解ります。

 ただ、全体を通して理不尽なゲームという印象があります。このゲームでは種々のアイテムを使って物語を進める必要があるシーンがあるのですが(例えば扉を開けるのにコインが必要だとか)、そのアイテムを持っていないということが往々にしてあります。そして大抵、そのアイテムはその時点では既に取れなくなっているものである場合が多いのです lol。すると、リフレクターを使って時間をさかのぼったり、あるいは物語の最初へ戻って(物語の最初へは宝玉がなくても戻れます)、そのアイテムを手に入れられるルートを探す必要があります。この際、同じ会話や展開になることが多く、ルーチンワーク感が出てきてしまうのも事実。しかもどうやれば違うルートに入れるかが解らない時があります_| ̄|○。

 他には、異世界編に入ると話のスケールが突然大きくなるし、システムも変化するので、多少のちぐはぐ感があります。もちろん、あのスケールでなければ最後までテンションを維持できないのですが、もう少し現代編を削って、その制作エネルギーを異世界編に使った方が良かったんじゃないかと思います。菅野氏へのインタビューでも、そういった話が出ているそうです。

 以上の事柄もそれ程問題にならないほど素晴らしいゲームでしたけどの。このシナリオは、ゲームという表現手法でしか表現できず、それを活かしきったところにこのゲームの偉大さがあります。是非、リメイク版などを出して、多くの人がこのゲームを楽しめるようにして欲しいです。